1. なぜ会計監査を受ける前の準備が必要なのか?

「IPO総論 IPOの標準的なスケジュール」で述べたように、IPOを実現するためにはさまざまな課題をスケジュール通りにクリアしていくことになります。監査法人による会計監査はIPO準備の2期間といえども実施する内容は上場企業の監査と相違ありません。そのため、いざ会計監査を受けようとする時に体制が整っていなければ、想定外の時間が必要となったり、その結果IPOスケジュールが延期となることもあり得ます。最悪の場合、監査法人から会計監査契約の継続がなされなかったり、解除される恐れも生じます。このような事態に陥らず、スケジュール通りのIPOを実現するためには事前の準備が非常に重要になってくるのです。

2. 監査法人、主幹事証券会社の選定

IPOにおいて必須のステークホルダーに監査法人と主幹事証券会社があります。逆にいえば、監査法人と主幹事証券会社が決まらなければIPOの準備はスタートしません。

監査法人といっても、全国にその数は約270法人ありその規模、活動地域、業務内容はさまざまです。一般的に規模別に大手、中堅、中小・新興と区分され、この数年前までは大手監査法人(BIG3)と言われる、新日本有限責任監査法人、有限責任監査法人トーマツ、有限責任あずさ監査法人がIPO担当監査法人の約9割を占めていました。

しかしながらいわゆる「監査難民」問題解消に向け近年IPOを担当する監査法人の裾野が広がり、BIG3以外の中堅、中小・新興監査法人も積極的に関与するように変わってきています。大事なことは、規模や過去の実績だけでなく、自社にマッチしIPOに想いをもった監査法人を選定することです。それが1で述べたように会計監査契約締結後に継続ができなったり、途中解除といった事態を招くことを防ぐことにもつながります。

主幹事証券会社も同様で、大手から中堅証券会社までさまざまな証券会社がありIPOにかける力量も異なります。そのため、会計監査が始まる前にさまざまな証券会社と接触し、どの証券会社が自社にマッチするのかを検討することが重要です。

3. 人材の確保

監査法人、主幹事証券会社の選定が完了し、社外の体制が整ったとしても、社内の体制が整っていなければIPOの準備は進められません。

IPOの実現には、事業の成長と内部管理体制の構築という両輪を上手く回す必要があり、事業の成長には社長を中心とした経営層による牽引、内部管理体制構築には管理担当取締役(CFO)を中心とした専門部隊の充実が不可欠です。すでに社内にそのような人材が確保できているなら問題ありませんが、人材を確保する必要が生じているのでしたら、事前に人材の確保が必要となります。

CFOのほか、経理・財務担当者の充実、内部監査などの人員確保が必要となり、IPOの活況も伴ってそのような人材獲得は困難になっていますので、できる限り早期の確保が求められます。

4.利益管理制度の整備

IPOには事業の成長が不可欠ですが、ただ計画なしに成長すれば良いというわけではなく、作成した事業計画通りに成長していくことが重要となります。そのためには「どのように事業計画・利益計画を作成するのか?」「予算と実績の比較分析を行い、その比較分析結果をどのように将来に反映させるのか?」といった利益管理制度の構築が求められます。

この利益管理制度に基づき作成された事業計画・利益計画は会計監査においても重要ですし、主幹事証券会社の審査において最重要ポイントとなります。事実、会社が作成した事業計画が未達であるため、IPOスケジュールが延期となった事例は枚挙にいとまがありません。

5. 社内ルール・会計処理の整備

IPOを実現することは、私企業から公企業になることを意味し、公企業とは組織的に活動する企業をいいます。組織的に活動するためには、会社に所属する経営者、従業員などが、定められたルールに沿って活動することが求められます。以上から、社内ルールの作成が必要となるのです。社内ルールには、諸規程、職務分掌、稟議決裁などが該当することとなります。

また、IPOとは今まで存在しなかった社外の投資家により自社の株式を保有されることとなります。これら投資家をはじめとした社外の利害関係者は、自社の経営状況を把握するために統一されたルールに則って作成された財務諸表を利用することになります。この統一されたルールが会計基準であり、IPOを実現するには会計基準に則った会計処理を行うことが必要となります。そのために事前に会計処理の整備が必要となるのです。

6. 関連当事者取引の把握

上述のように自社がIPOにより公企業となるためには、外部の利害関係者が安心して株式の売買を行うことができるように、特定の者が不当に会社の利益を害していない状況を確保することが必要となります。この特定の者を「関連当事者」と言い、大株主や取締役等並びにその近親者が該当します。関連当事者は、会社にさまざまな影響を及ぼす可能性がある者と定義されていますので、関連当事者と会社との取引が存在する場合に、会社の利益を害して関連当事者の利益となるように不当な取引を行う可能性があるのです。以上から関連当事者の把握と関連当事者との取引の把握が必要となり、取引が存在する場合は、基本的に早期の解消が求められるのです。

7.関係会社の整理

関係会社の存在は、6と同様に関係会社間において不当な取引が行われる可能性があることから、主幹事証券会社の審査においてその存在について検討されることとなります。自社と全く関連性のないビジネスを行っていたり、存在に合理的な理由がないなどといった懸念がある場合は解消が求められる可能性があるため、事前の検討が必要となります。

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坂口勝啓

2003年10月:公認会計士試験に合格し、あずさ監査法人入社。入社以降一貫して株式公開業務に従事。9社を株式公開に導く。


2018年 8月:一般事業会社にてIPOコンサルティングに従事。株式公開の知見を生かして現実的かつ実行可能性の高いアドバイスを行う。


2021年 3月:再度IPO業務に従事するため、IPOに理念を強い理念をもつシンシア監査法人に入所。